子羊は貧しい家庭で母羊と弟羊たちと暮らしていました。
しかしある日、母羊が病気で倒れてしまい一番大きい子羊は働きに出なくてはいけなくなりました。
働くといってもまだ子供なので何をどうしていいのかわかりません。
子羊は北の山へ登って何かを探す事にしました。
村の北の外れには大きく頂上の見えない白い山があります。しかしその高さと険しさのために頂上付近まで登ったという話は聞いた事がありません。
子羊は山を丸一日どんどん登りました。すると道途中に黒い布をまとった山男が座っていました。
子羊は山男の風貌に驚きましたが尋ねました。「この辺りになにか仕事はないかな?」
山男は答えました。「このあたりは白い女神が山のてっぺんに住み着いてから寒くなり、すっかり動物がいなくなってしまったんだ。話し相手もいないし一人では寂しい。俺と一緒にここで木の実でも食べながら暮らさないか?」
子羊は「山を降りたらいろんな人がいるからさびしくないよ。」というと、
山男は「生まれてこのかた山を降りたことは一度も無い。山をおりて生活するなんて到底できっこない。」といいました。
子羊と山男はお互い山のふもとの村の話や山での暮らしの話などたくさんしました。
山男は最後に子羊に「おい。山をこれ以上登るなよ。」といいました。
しかし子羊は山賊にさよならすると、言われたことを聞かずにどんどん山を登っていきました。

三日も登ってみると、大きくて立派な門がある家がありました。ドアを叩くと白い女神がでてきました。
女神はいいました「まあかわいい子羊や。中にお入りなさい。」
子羊が家の中に入るとそこには見たこともない豪華な家具やおいしそうな果物がたくさんありました。
「全部おまえの好きなようにしていいのよ。」
女神にそういわれた子羊は夢中でパイナップルを食べ始めました。
食べ終わってから女神に母親が病気なので自分が働かなくてはならないというと、
女神は「わかったわ。」「でも今日は疲れたでしょう。ふかふかのベッドで寝なさい」といいました。
子羊は深い眠りに落ちました。
翌朝子羊はとってもおいしそうな匂いで目が覚めました。女神が山菜で作ったスープを差し出すと子羊は夢中でたいらげました。甘いパンもたくさん食べて、食事が終わり横になったあとは女神とボードゲームをして遊びました。子羊はとっても楽しくて、こんな生活がずっと続けばいいなあと思いました。
7日ほどそんな生活を続けたあと、子羊は母羊がどうしているか気になり、
女神にそろそろ帰らなくちゃといいました。
すると女神は「帰らなくていいのよ。あなたはずっとここで幸せに暮らすの。山からだしませんよ。」といいました。しかし子羊がそれでも母のために帰ると泣いて駄々をこねたので、女神は悲しそうにいいました。
「私は山の神として生まれ、なに不自由生活してきました。しかしこの先何千年も山を降りることは許されません。私にはあなたしか友達がいないの。それでもいってしまうの?」
子羊は頷きました。
女神は「いっそあなたなんか来ないほうがよかったわ」と言って部屋に閉じこもって泣きじゃくりました。

子羊は女神がかわいそうになりましたが、早く帰らなきゃと思い立ち、上等な木で作られた家具があったのでそれをばらばらにしてスキーを発明しました。
雪山を滑り降りながら帰り道に黒い山男のところに寄ると、山男は痩せてくたびれてみえました。
子羊は山男にスキーをみせると、山男は「これなら山をおりたくなるなあといいました。」
子羊はスキーの作り方を教えてあげました。 

子羊は山を下り自分の村へ着きました。母羊はまだ咳をしながらベッドで寝ていました。子羊が山の女神の話すると母羊は笑いに臥しましたが、子羊が帰ってきたことがなにより嬉しいようでした。
子羊はスキーをたくさん作って村々に広めて暮らしをたてました。

山の女神はというと、何年も泣き続け、気が付くと泉になっていました。泉は山を流れて小さな川になり、やがて子羊のいる村へ届きました。その川の水を飲むと母羊の病気は次第によくなりました。川の周りにはたくさんの動物が集まり、豊かな土地となって賑わいました。